ご心配してくださった皆様、ありがとうございました。家族・友人・会社の同僚、幸いにも全員無事でした。
その日はいつも通り会社で仕事をしていたところ、東京の同僚から「地下鉄大変みたいですね」との連絡を受け、最新のニュースが流れているマーケットの情報端末を見てみると「地下鉄が高電圧のため止まっている」とのニュース。「あー地下鉄はいつも止まっているからいつもよりちょっとひどいぐらいか」と思い、そのままミーティングを続けていました。すると突然館内放送が入り「地下鉄が爆発した模様です。同僚が会社に来ているかどうか、外出した場合には連絡をとってください。またこれ以降外出を禁じます」とのいつもとは異なる緊迫した放送に皆一斉にただ事ではないと感じました。 その後は皆さんご承知のとおりです。爆発のあった場所は会社から近く、私もその地下鉄に乗っているわけじゃないのですが、その駅の近くを通っているので、「万が一」を考えるとぞっとしたのはいうまでもありません。 今回のテロはCityを狙ったものという見方もありますが、マーケット自体は朝が早く7時・8時ぐらいから始まっており、爆発があった時間帯にはほとんどの人が会社の中にいたため、その見解には疑問符がつきます。 また最後に爆発したEdgeware Roadという駅周辺はLondonでも有名なアラブ人街。私達も時々レバノン料理を食べに行ったりするので、私は常々「この場所が一番テロから狙われにくい地域だろうな」と思っていたので、アルカイーダを犯人と決め付けるのはなんとなく腑に落ちないというのが率直な感想です。各テレビ局もこの点に注目していてこの地域の人にインタビューをしていましたが、犯行声明が正式に出されないのでなんとも現時点では何もわかりません。 私が今回のテロで注目したのが会社の危機管理対応です。東京にいた時はBCP(Business Continuity Plan)というProjectを担当していました。BCPとは地震等の自然災害等でオフィスで仕事が続行不可能になった場合にその後どのようにビジネスを続けていくか予め細かいルールを作り、それに基づいてバックアップのシステムを構築し、災害による影響を最小化し損失を最小限に抑えるためのプランです。 近年日本では東海沖地震が現実的になるにつれ金融機関でも同様のプランが積極的に推進されていますが、外資系はBCPに昔から力を入れています。理由としてはIRA(北アイルランド独立を求めるアイルランド共和軍)が90年代にCityにテロを行った際に、業務停止によるマーケットへのインパクトが大きかったことから、自然災害よりもテロによる業務停止という見地からBCPを推進してきたからです。 ただ日本ではそのような認識がないため、私が外人の上司と日本銀行へ当社のBCPの取り組み方を説明しに行った際に、「どのような災害を想定をされていますか」との問いに「地震もそうですが、テロやミサイル攻撃です」と答えたため、驚かれました。 話はロンドンに戻りまして、今回も「テロでないか」との一方が入るや否やBCPに基づきManagement Memberによる「Crisis Management Committee」(危機管理委員会)が召集され、各関係機関と連絡を取り、外出禁止、スタッフの安否確認といった作業が直ちに行われました。 その後も数度委員会が開かれ、スタッフの帰宅方法、明日以降の業務の進め方など細かい指示が的確に出されました。特にマーケットはこういった出来事に過敏に反応するため欠員がでると翌日以降の業務に深刻な影響がでます。従って交通事情等により会社に来られそうもないスタッフにはホテルが手配される等、短時間で様々な方策が図れました。また当局がOKを出すまでは会社待機命令が出され、その日は4時ぐらいまで昼食も含め一切の外出が禁止されました。 そのような迅速かつ的確な判断のため当日もそうですが、翌日も業務にほとんど影響なく仕事が成し遂げられました。やはりテロに対しては「いつもと変わらない」態度BAU(Business As UsualとBCPの世界では呼びます)を示すことが私達がテロリストに対してできる、武器を使わない唯一の攻撃なのだと思います。 その証拠にロンドンの町は金曜日の夜あたりから通常に戻り(地下鉄は一部動いていませんが)、人々は町に繰り出し、普段通りにパブでお酒を飲み、ショッピングをし、ミュージカルを鑑賞していました。この街、人の強さを改めて感じたのはいうまでもありません。
by kumasan_life
| 2005-07-07 22:38
| 外資系金融 (14)
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